【2006年11月14日脱稿・2017年6月5日加筆修正】初出:配信『機動戦士ガンダム』用原稿(サンライズ)

『機動戦士ガンダム』は「ロボットアニメ」というジャンルに属している。1979年当時、このジャンルは玩具メーカーがメインスポンサーとなり、オモチャを売るために番組企画と制作が成立するのが一般的であった。

第3回で述べたように、こうしたビジネススキームの成立は1972年末放送開始の『マジンガーZ』までさかのぼる。同作が『ミラーマン』の後番組という事実からも「特撮変身ヒーローをメカに変換したものが操縦型の巨大ロボットヒーロー」という構図がわかる。ただし、当初玩具はあくまでも作品(フィルム)をベースにした2次商品であった。

ところがやがて商品展開上、「ロボットであること」が変身ヒーローと決定的に異なるバリューをもっていることが判明していく。作中、マジンガーZの装甲は「超合金Z」と設定されている。これにヒントを得てミニカー玩具と同じダイキャスト鋳造法による亜鉛合金製のロボットを「超合金ブランド」で商品化したところ、大ヒットしたのである。合金玩具自体はミニカーですでにユーザーに受けいれられていたが、それを人型のヒーローに応用したところ、作中で活躍するロボットのイメージと合致していること、金属製で壊れにくいこと、そしてずっしりと手応えのある重みに、新たなる価値観が発生したのである。

『マジンガーZ』の玩具はさらに劇中のギミックも機械的に忠実再現し、商品価値を高めていた。腕はスプリングで飛んでロケットパンチを再現、飛行メカ“ジェットスクランダー”などオプションパーツの装着など、後にデファクト・スタンダードとなるプレイバリューを多数備え、アニメのシリーズ展開に合わせた「パワーアップ構想」と連動させていた。こうした商業的開拓と成功をふまえ、ロボットアニメがジャンルとして確立したのであった。

この新生ジャンルはメイン商材となる主役ロボット自体のデザイン・機構の開発を進化させていく。たとえば当初、アニメーションの特質であるメタモルフォーゼ(作画的な変形)で描かれていた「メカの合体」も、玩具化を前提にした実現可能性を含んだかたちに進化していった。こうした「変形・合体」のルーツは、1966年(日本の放送年)の英国人形劇『サンダーバード』で好評を博したメカニズムにある。それを発展的に取りいれ、「人型」にすることでロボット玩具は児童層におおいに訴求したのである。

その機運がもっとも盛り上がり、作品数的にもピークを迎えるのは、1975~1976年ごろであった。この時期、ロボットアニメには「主役メカ」という言葉が用意されるようになった。それはエンドユーザーが玩具として手に取ることになるロボットのほうが、人間の主人公を上回る「主役」ということを意味する。つまり、商業的な観点ではストーリーやドラマの方が2次的になっていったということだ。逆にそれが「ロボット玩具が売れれば自由にしていい」と「オリジナル」を極めることにつながるから、一面的に否定することはできない。

『ガンダム』の企画は当初ロボットから離れ、「十五少年漂流記」をイメージした宇宙ものとして進められていた。だが当時のスポンサーだったクローバー社からの強い商業的要請で、従来どおり主役メカをロボットにすることが決まる。そして具体的な商材としては後にブームとなるプラモデルではなく、やはり当時の主流だった合金玩具となった。本放送当時の玩具は「児童向け」という狙いどおり、「オモチャ化」されている。ボディの白い部分には合金の地が目立つよう銀色が配され、子どもが粗雑な扱いをしても大丈夫な堅牢性のある体型で直立不動、腕はスプリングで飛び、肩には玩具専用のミサイルを装着している。リアルを追求したプラモデルを見慣れた現在の目で見ると軽いカルチャーショックを受けるが、それは時代の必然でもあった。

玩具的プレイバリュー(遊ぶことによる商品価値)は「変形合体」の両方をそなえている。そのうち「変形」はコア・ファイターが受け持ち、機種と翼を折りたたんでコア・ブロックとなる。企画時には「マッチ箱」と呼ばれていたが、ブロックを垂直に立て、上半身・下半身を接合するのが「合体」としてのプレイバリューとなる。

前2作の『無敵超人ザンボット3』『無敵鋼人ダイターン3』の大ヒットを継承すべく、「3」もマジック・ナンバー的に扱われている。『ガンダム3』という仮タイトルの残った企画資料も現存しているが、ガンダムの「3」は「ガンダム、ガンキャノン、ガンタンク」の3機を意味していた。つまり上半身3種×下半身3種で9種のロボットに変形可能というのが目玉となるべきプレイバリューで、「上半身ガンダム・下半身ガンタンク」という遊び方ができるのである。

しかしこの機構には無理があったのか、フィルムには登場していない(映像としては90年代になって、ゲームで再現された)。玩具としても現実には低額商品の一部に採用されただけで、主流の合金玩具はあくまで単体で遊ぶものとなった。そして、従来のロボットアニメの枠組みを大きくはずれた作品は、児童層には容易に受け入れられず、合金玩具商戦は苦しいスタートを切ることになる。放送末期、作品人気の上昇とともにようやく玩具も売れ始めたが、すでに放送短縮は決まっていた。商材的にもさまざまな「ズレ」を内包しながら『ガンダム』の歴史は進んでいくが、それもまた作品の「画期的な新しさ」がもたらしたものだったのだ。

(敬称略)