【2006年7月11日脱稿】初出:配信『機動戦士ガンダム』用原稿(サンライズ)

今でこそアニメ雑誌があるのは、当たり前に思われているだろう。だが、『機動戦士ガンダム』が放送された1979年は、まだアニメ専門の雑誌が誕生して間もない時期……当時はいつ消えてもおかしくないものであった。

1977年に『宇宙戦艦ヤマト』が劇場公開されて大ヒットしたのを受け、徳間書店が「アニメージュ」を1978年5月に創刊。同誌の成功を受けて1979年には近代映画社が「ジ・アニメ」を創刊し、「スターのグラビアを掲載するアイドル映画誌」に近い概念のA4判アニメ雑誌というフォーマットが確立する。『機動戦士ガンダム』が登場した時期はこうした雑誌が、『ヤマト』並みの新たな目玉作品を欲していた時期だった。

この時期、リメイクや再編集で劇場公開されたアニメ作品には、ひとつの共通項があった。『宇宙戦艦ヤマト』、『ルパン三世』、『エースをねらえ!』など、いずれも本放送時には高視聴率が得られず、数年しての再放送で人気を獲得、やがて映画化というパターンが反復されていたのだ。リアルタイムで評価されてこなかった理由としては、ティーン層に向けてアニメ作品の適切な情報や魅力を伝える《メディアの不在》が、最大のものではないだろうか。だからこそ『機動戦士ガンダム』がリアルタイムで観客に受け入れられた作品ということには、アニメの受容の歴史を考える上で格別の意味がある。ましてやその後、アニメ雑誌(アニメマスコミ)が迎えた隆盛を考えると、このタイミングで発生したフィルムとメディア相互の強い関連性には、特別の注目が必要だと考えるのである。

「アニメージュ」に放送開始の情報が掲載された1979年4月号(3月10日発売)から最終回情報の載った1980年2月号(1月10日発売)まで11号のうち、『ガンダム』が表紙を飾ったのは9月号と12月号の2冊。いずれも安彦良和のイラストだが、後者は急病で描きおろしができなかったため、シャアの「線画(第10話の修正原画)」を代用して、逆に読者に「ガンダムの作画クオリティを支える安彦良和の実力」に関して生々しいインパクトを与えた。

放映時期の他の表紙作品は、新作が『サイボーグ009』(2回)、『新・巨人の星II』、『ルパン三世(新)』、『ルパン三世カリオストロの城』の4作。旧作は『海のトリトン』、『未来少年コナン』というラインナップだった。特に注目したいのは放送終了直後の3月号の表紙がまたも『ガンダム』で、しかも半年近く前の第24話で死亡したマチルダ・アジャンの場面写真を採用していることである。

本放送の後半から終盤に向け、ガンダム人気が加速的に上っていたことは最近も多くの人が証言しているが、その裏づけもこんな形で記録されていたわけだ。だから、『ガンダム』について「玩具売上不振で番組が打ち切られた」という言い方は事実であっても、「放送中には人気がなかった」という表現には問題がある。盛り上がりの中で最終回を迎えたというのが本放送時の真の状況であるため、それはこの機会にぜひとも心に刻んで欲しい。

さて、アニメ雑誌はグラビア主体のA4判ばかりではなかった。アニメグッズを販売する会社ラポートが「マニフィック」というB5判の中とじ雑誌を1978年末に創刊、これがファン向けのグラビア映画誌に対する評論主体の「キネマ旬報」に近い役割を果たしていくようになる。同誌は『機動戦士ガンダム』スタート直後の1979年5月の第5号からは平とじの隔月刊「アニメック」と改題し、次の第6号でガンダム特集をしたとたん完売、増刷になるという事態が起きた。それはメジャー誌ではまだ大きくは扱われていなかった設定資料や富野監督のロングインタビューを掲載したことが最大の要因だった。

そのインタビュー内容は、小牧雅伸編集長(当時)の趣味を反映し、フィルムを観ているだけでは気づきにくい細部、特にSF考証的な部分を大きくフィーチャーしていた。つまり、『ガンダム』の難解だと思われがちな部分への副読本的な役割を、「アニメック」は果たしたわけである。ちなみにこの設定資料を多用した用語事典の編纂によって作品世界を膨らませるというスタイルは、小牧編集長や筆者(氷川竜介)が『宇宙戦艦ヤマト』の同人誌時代に確立していたもので、それがリアルタイムの作品へ応用されて成果を出したという意味でも、感慨深いものがある。

小牧編集長とスタッフは、やがて本編でNGになった「ガンダーX78」というセリフをヒントに兵器としての型式番号「RX-78」を主役メカのガンダムに付与し、以後は「モビルスーツと言えば型式番号」という設定が定着する。これも実はマスコミ側からのフォローアップに端を発したことだったのだ。

アニメマスコミもハイターゲット向けのアニメも同時に黎明期だったころ、互いに何も語りあわなくとも両者でともに盛りあげていこうという機運が確実にあった。『機動戦士ガンダム』は、そうした潮流の発展史を探るときの指標の役割も果たしているのである。(敬称略)