【2006年4月20日脱稿】初出:配信『機動戦士ガンダム』用原稿(サンライズ)

『機動戦士ガンダム』はTVアニメのエポック・メイキングな作品である。それは間違いないが、闇雲に斬新だったわけではない。この作品が登場するにいたるには背景となる状況があり、連綿とつながってきたジャンルとしての文脈がある。そうしたものにも目を配ると、また別の視点が獲得できて楽しみも拡がるはずだ。

たとえば、『ガンダム』はロボットアニメというジャンルを拡大はしたが、逸脱したわけではない。それを認識する上では、特撮作品(実写)含めた児童ものという上位ジャンルの流れに注意を払う必要がある。

『マジンガーZ』(’72)から始まったロボットアニメというジャンルは、実は特撮作品『ウルトラマン』(’66)で確立したフォーマットをアニメに応用したものなのである。毎回違った敵の「怪獣」が襲来し、主人公が「変身」して敵と格闘した末に必殺技でトドメを刺す。この点はまったく変わらない。そして、メカの操縦席に座って主人公が巨大ロボを自在に操る行為とは、この「変身」をメカに疑似したものと言える。その要素は『ガンダム』にも受け継がれ、アムロに「変身」をさせて「何か特別な力」を与えるガンダムのヒーロー的構造は変わっていない。

もうひとつ、日本の児童ジャンルに大きな影響を与えた作品を知ってほしい。それは『ウルトラマン』と同年に英国から輸入された特撮人形劇『サンダーバード』である。この作品が導入したものとは、メカの格好良さである。サンダーバード1号から5号まで用途に特化してデザインラインを変え、1号は可変翼をもつ「変形メカ」、2号は装備コンテナを着脱する「合体メカ」というラインナップ構想。毎回のエピソードにアクセントをつけるライブフィルム(流用)による発進シーン。こうした諸要素を列挙すれば、まさにロボットアニメのアーキタイプ(原型)にふさわしい作品だということが浮かびあがる。

同作がマーチャンダイジング的に大成功を収めたため、『ウルトラマン』+『サンダーバード』=『ウルトラセブン』と、簡単な方程式が書けるほど国内の児童ジャンルには大きな方針転換が起きた。この考え方を使えば、『ウルトラセブン』の「生身の巨大宇宙人」を「操縦可能なメカ」に写像(変換)したものが『マジンガーZ』だという数学的理解も可能である。

こうして確立したロボットアニメのフォーマットとは、「味方には基地があって指揮官がいてチームが待機。主人公が変形メカで出撃、合体して巨大ロボとなり、味方チームの支援を受けながら敵と格闘する」というものだ。ここまで抽象化すると、『機動戦士ガンダム』TVシリーズでそれが根底から覆ったわけではないことが、よくわかるだろう。

だから、慣習的に言われる「ガンダムはリアルな兵器と戦争を描いたから、他のロボットアニメと違って画期的だった」という言い方は、間違ってはいないが、決して正確でもない。あくまでロボットアニメで商業的成功を遂げてきたジャンルとしての価値観を極力残しつつ、どこまで非現実的なヒロイック要素を減じ、どんなリアリスティックな要素を加えれば、新しいロボットアニメができるのか……。それを試した作品なのだ。

肯定と否定、そして革新の3つのアプローチが互いにセットになったとき、初めてエポックが作れる。“『ガンダム』が画期的だった”と語るときには、ぜひこの視点を忘れないでほしい。