3Ⅾスキャニングによるデジタルアーカイブの試み
「日本特撮アーカイブ」は、文化庁の委託を受け、森ビル株式会社が事務局となり、2012年度から日本特撮に関する調査(註1)やオーラルヒストリーの記録などを行ってきたプロジェクトです。庵野秀明、氷川竜介、樋口真嗣、尾上克郎、原口智生、三池敏夫ら、2017年設立のATACのメンバーが参加し、現在も継続しています。
2018年度には中間制作物(ミニチュアなど)の修復・復元を推進するため、文化庁メディア芸術アーカイブ推進支援事業(註2)の助成のもと、「日本海大海戦」(1969)に登場する戦艦三笠のミニチュアの修復を実施。2019年度には須賀川特撮アーカイブセンターへの収蔵品のリスト化作業を実施、2019年11月に開館した特撮アーカイブセンターの収集保管活動に貢献しました。
2020年度は新たな試みとして、怪獣の着ぐるみなど立体物の3Ⅾスキャニングを行い、デジタルアーカイブ化を試行しました。
着ぐるみなどのラテックス(ゴム)製の造形物は経年劣化が著しく、これまでの調査からどのような対策を施しても永続的な保管は難しいと言われています。古いものは加水分解が進み、当時の形状が崩れてしまっています。これらの経年劣化が避けられないのであれば、デジタルデータとして永続的に残せないかと考え、3Ⅾスキャニングに挑戦したのです。
スキャンするのは、「ウルトラマン」(1966~67)第19話「悪魔はふたたび」に登場した怪獣、アボラスとバニラの頭部です。また比較対象として、ラテックス製以外の造形物である「電人ザボーガー」(1974~75)に登場したロボット、ストロングザボーガーのマスクもスキャニングを実施しました。いずれもこの世にひとつしか残存していない貴重な中間制作物です。(協力:円谷プロダクション、西村祐次、ピー・プロダクション)
アボラス/バニラ/ストロングザボーガー
今回は、「ハンディスキャナー」と「フォトグラメトリ(専用スタジオ)」「フォトグラメトリ(簡易スタジオ)」という3つの手法で3Dスキャニングを行い、データの精度や色の再現性などを検証し、今後の3Ⅾデジタルアーカイブに最適な方法を検討しました。(3Dスキャニング:ケイズデザインラボ)
フォトグラメトリ(Photogrammetry)とは、被写体をさまざまなアングルから撮影し、そのデジタル画像を解析、統合して立体的な3ⅮⅭGモデルを作成する手法です。フォトグラメトリは3Ⅾスキャナーのような特殊な機器が不要で、通常の写真だけで生成できることが特徴で、デジタルカメラを用いた3次元測定機に応用されています。
フォトグラメトリによる3Ⅾスキャニング
一方、ハンディスキャナーは、フラッシュ時、フリンジパターン(縞模様)投影とともに画像取得を同時に行い、画像解析技術により、複数の画像のずれから、三次元データ化する手法です。
ハンディスキャナーによる3Ⅾスキャニング
また、スキャニングを行う前に、それぞれの状態を詳しく調査しました。アボラスとバニラの調査では、内部に瞼や顎を動かしていたと思われる機構、眼を光らせるための電球などの存在を確認。ストロングザボーガーは、表面に撮影中の再塗装と思われる痕などを確認しました。
今回、フォトグラメトリでデジタルデータ化したアボラス、バニラ、ストロングザボーガーの3Ⅾモデルは、下記のリンクより、360度自由に操作しながらの閲覧が可能です。
(※スマホの方は、各リンク先からご覧ください)
<アボラス>
https://skfb.ly/6YPXz
<バニラ>
https://skfb.ly/6YPXB
<ストロングザボーガー>
https://skfb.ly/6YPXC
(註1)参考リンク:メディア芸術カレントコンテンツ「日本特撮に関する調査」
https://mediag.bunka.go.jp/article/tokusatsu_report-916/
(註2)文化庁 メディア芸術アーカイブ推進支援事業:日本の優れたメディア芸術(アニメーション・マンガ・特撮・ゲーム・デジタル技術を用いて作られたアートなど)作品の保存及びその活用・公開等を支援し、メディア芸術を振興するために文化庁が実施する事業です。特に散逸や劣化の危険性が高い作品を中心に、保存や活用、調査研究などの活動を支援しています。
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